「タオルで首絞めるだけでは死ねないよ」命を軽視する大阪入管医師

8月16日 大阪入管(大阪出入国在留管理局)面会

 

命の軽視

「タオルで首締めるだけでは死ねないよ」

8月10日、大阪入管に収容されているコロンビア人男性のカストロさん(仮名)●歳が自殺未遂を行った際、入管医師が彼に向かって放った一言。

 

大阪入管では今年5月に常勤の医師が酒に酔った状態で被収容者を診察したと各メディアが報じており、これに引き続き入管医師の人権意識の低さが浮き彫りとなった形だ。

医師の泥酔診察の後、大阪入管は医療体制を見直し、新たに4人の医師が就任することとなった。その内訳は、3人が整形外科医、1人が内科・精神科医となっている。カストロさんによると、今回の自殺未遂で診察を担当した整形外科医は「話を聞くだけでメモさえ取らなかった」という。その後、精神的にも身体的にも限界を迎えていたカストロさんに向かって、およそ命と向き合う職種に就く者とは思えない言葉をかけた。

さらに自殺未遂のおよそ7時間後にしてようやくカストロさんの首の記録撮影が行われた。7時間が経過し、首にタオルのあとは残っておらず、カストロさんは「入管はきちんと撮影をして記録を残そうとしたという事実が欲しかっただけ。人の痛みのこと何も考えていない。入管のことだけ考える」と悔しさをにじませた。

 

入管内で感じた孤独と絶望

カストロさんは自殺未遂の理由として「ずっと一人でいるのがつらかった」と証言している。現在およそ50人の外国人が収容されている大阪入管でなぜ孤独を感じる状況が生まれているのか。

 

大阪入管では以下のような構成で被収容者がA・B・C・Dの4つのブロックに分かれて部屋を割り当てられる。

 

        【大阪入管の被収容者のブロックと収容人数】

 

A、Bブロック・・・・男性(それぞれ6人部屋×8+1人部屋×2)

Cブロック・・・・・・女性(6人部屋×8+1人部屋×2)

Dブロック・・・・・・新規収容やコロナ対策などで一時的に隔離が必要な人(1人部屋×50)

 

カストロさんは今年の3月からDブロックの一人部屋に収容されている。ブロック選定の理由は入管側が「車いすだから」としているが、果たしてそれがDブロックの一人部屋に入る正当な理由になりうるのかは疑問が残る。

 

5カ月の間一人部屋に収容され、入管職員以外の人とコミュニケーションを取れるのは今回のように面会の申請があるときだけだという。カストロさんは「人と話したい」という思いから部屋の移動を申請したが、入管側からはBブロック(男性用ブロック)の一人部屋が提示されたという。さらにその場合、与えられる解放時間(部屋の施錠が解かれ、自由に入管内施設へ出られる時間)は11時〜13時30分の間と、他の被収容者の自由時間とは重ならないよう調整されていた。つまり現在のDブロックから希望のBブロックに移動できたとしても人と交流する機会は持てないのだ。カストロさんはこのような処遇に絶望し、タオルで首を締めて自殺を図ったのだった。

 

「魂の殺人」

カストロさんが書いた遺書には入管生活での孤独と苦悩がつづられている。



「おおさかにゅうかんの全てのせきにんです。こんな残酷な非人間的なルールです 私は体に障害があるからさべつと人権侵害などうけています(略)ほかの入出所者一緒にうんどうなどさせてくれない話すこともできません なにゆえ私に孤立させる このなかいるだけとても々つらいとくのうと淋しいです 私としては正に魂の殺人だとしか言い様がないのです」



"未遂"で終わったことで一命をとりとめたカストロさん。「わたしは今助かったが、他の人(被収容者)は死ぬかもしれない」と同じ立場の被収容者たちを案じた。他の収容者に向けて「生きていたらなんでもできる」と考えを述べ、自身について「娘に会いたいから生きる」と希望を語った。最後に会ったのは5歳。現在15歳になった娘の顔を見ることが入管施設の中でカストロさんが生きる目的になっている。



故郷のコロンビアから14357㎞離れた日本の入管で感じる孤独。自分が人間として扱われていないという意識。「私は人間として人と交流したい」というカストロさんの言葉は彼が置かれた入管の現状を訴えている。人の命と向き合うはずの入管は今何と向き合っているのだろうか。